大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12929号 判決

原告 日本機械工業株式会社

右代表者代表取締役 伊藤芳之助

右訴訟代理人弁護士 藤森功

被告 東洋軌材株式会社

右代表者代表取締役 奥村庄市

右訴訟代理人弁護士 多賀健次郎

同 下山博造

右訴訟復代理人弁護士 松井孝道

主文

被告は原告に対し金六、五〇三、一二四円及びこれに対する昭和四三年一二月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項同旨

2  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和四三年八月二〇日被告との間で、つぎの約定による脱線防止材の部品製作請負契約を締結した。

注文者 被告 請負人 原告

品名、数量、単価

受台      一二、七六六個

単価 一、二〇〇円

ブロック① 一、八六〇個

単価 九一五円

ブロック② 二、四六〇個

単価 一九〇円

代金合計 一七、四八八、五〇〇円

納期   昭和四三年八月末日

納地   被告会社平塚工場

2  原告は右各部品を製作の上、昭和四三年八月二八日にブロック②を、同年九月五日にブロック①を、同年九月二一日に受台をそれぞれ被告に納入した。

3  被告は

昭和四三年一〇月一日   二三四、〇〇〇円

同   年一一月四日 五、〇〇〇、〇〇〇円

同   年一二月二日 五、〇〇〇、〇〇〇円

合計     一〇、二三四、〇〇〇円

を原告に支払った。

4  前記の如く原告がブロック①及び受台の納入を約定の期限より遅延したことにより被告は損害を受けた。その損害額は七五一、三七六円である。原告は同損害額を本件請負代金残額より控除する。

5  よって被告に対し、残代金六、五〇三、一二四円及びこれに対する弁済期後である昭和四三年一二月一日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち原告が被告との間で脱線防止材の部品製作請負契約をしたことは認めるもその余の事実は否認する。代金は製品完成納入後精算し確定する約束であった。

2  同2は認める。

3  同3は認める。

三  抗弁

1  原告と被告との間で昭和四三年一〇月二九日

ブロック①の単価を七九一円

ブロック②の単価を一五四円

と合意し、ついで昭和四三年一二月二日

受台の単価を七一五円

と合意した。右単価によると残代金はない。

2  被告は昭和四三年一二月二日五、〇〇〇、〇〇〇円を原告に支払うに際し、これ以上の支払には応じられない旨申入れたところ、原告はこれを承諾し、右金員を受領した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。

2  同2は否認する。

五  再抗弁

1  原、被告間で抗弁1の如く減額の合意が成立したとするも、即日現金にて決済することが条件となっていた。ところが被告は即日現金払を拒否した。従って右代金減額の効力は生じない。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告が被告との間で脱線防止材の部品製作請負契約を締結したこと、及び請求原因2、3の事実は当事者間に争いがなく、請求原因4の事実は被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  ≪証拠省略≫を総合するとつぎの事実が認められる。

(一)  被告は注文者訴外日本国有鉄道(以下国鉄という)との間でつぎのような軌道用品製作請負契約を締結した。

1  昭和四三年七月一五日契約(八一〇三〇四号)

品名 軌道用品雑種(脱線防止ガード)

GTG―3―A 計 七八組

GTG―3―B 計八〇四組

GTG―3―C 計 七八組

代金合計 二一、〇七〇、八〇〇円(但し概算金額)

納期 昭和四三年七月一五日~同年八月三一日

納地 仙台、横浜、名古屋、広島各国鉄用品庫

2  昭和四三年七月一八日契約(八一〇三一〇号)

品名 軌道用品雑種(脱線防止ガード)

GTG―1―B 計一〇〇組

GTG―1―C 計 五五組

代金合計 三、八三九、五〇〇円(但し概算金額)

納期 昭和四三年七月一八日~同年九月一〇日

納地 仙台、広島各国鉄用品庫

3  昭和四三年八月五日契約(八一〇三一六号)

品名 軌道用品雑種(脱線防止ガード)

GTG―3―B 計二二組

代金合計 四八一、八〇〇円(但し概算金額)

納期 昭和四三年八月五日~同年八月三一日

納地 横浜、名古屋各国鉄用品庫

(二)  そこで被告は、前記軌道用品を製作すべく、部品の一部の製作を原告に注文(一部下請)し、原告との間でつぎのような部品製作請負契約を締結した。

昭和四三年七月中旬以降契約

品名      脱線防止ガード部品

受台      計一二、七六六個

ブロック① 計 一、八六〇個

ブロック② 計 二、四六〇個

代金(概算額が定められたが後日再協議する約束とし製作を開始)

納期 昭和四三年八月二〇日頃

納地 被告会社工場

(三)  前記契約に基づき原告と被告との間で昭和四三年八月二〇日、前記部品製作請負代金につき協議し、つぎのような合意が成立した。右代金額は最終概算金額とされた。

受台      単価(一個当り) 一、二〇〇円

ブロック①      〃〃    九一五円

ブロック②      〃〃    一九〇円

(四)  そこで原告は右各部品を製作完成の上、(請求原因2のとおり)昭和四三年八月二八日にブロック②を、同年九月五日にブロック①を、同年九月二一日に受台をそれぞれ被告に納入し、被告はこれを使用し、前記脱線防止ガードを製作の上国鉄に納入した。

(五)  被告と国鉄との間で前記軌道用品製作請負契約代金について精算が行われ、昭和四三年一〇月二九日つぎのように確定した。(何れも精算金額の方が増となるものであり、品形、納地によって減となる組はなかった。)

1  昭和四三年七月一五日契約分

概算金額 二一、〇七〇、八〇〇円

精算金額 二五、九九八、七六〇円

2  昭和四三年七月一八日契約分

概算金額  三、八三九、五〇〇円

精算金額  四、八四一、五〇〇円

3  昭和四三年八月五日契約分

概算金額    四八一、八〇〇円

精算金額    六〇一、二〇〇円

(六)  そこで被告は原告との間で前記部品製作請負契約代金について精算を開始した。そして被告は、昭和四三年八月二〇日合意の概算金額の減額方を申出た。原告は現金にて即時に支払ってもらえるならば減額に応じてもよいといったが、被告は右現金払の申出を承諾せず右精算のための協議は結局不調に終った。

三  ところで、請負契約等において、請負代金を確定金額とせず概算金額とした場合は後日当事者は精算のための協議を行う義務があるものというべきである。そして協議不調の場合概算金額を更に増額すべきであると主張する当事者は増額請求権を、同じく減額すべきであると主張する当事者は減額請求権を行使することが契約上認められているものと解される。そして特段の事情の認められない限り、右概算金額の増減額請求権の行使は、材料代の昂低などの経済事情の変動や、製作工程における予想外の事態発生等概算金額合意の時以降に生じた、代金額に影響を及ぼす客観的理由に基づくものでなければならず、単に概算金額、そのものが契約当時から高過ぎた(或いは低過ぎた)というような理由ではこれを行使することができないものといわねばならない。けだし概算金額といえども何ら意味のないものではなく、事情の変更がない限り、その金額を一応の基準として契約関係を継続進行させるものであって、このような当事者の期待ないしは利益を犠牲にしてもなお概算金額を修正するというにはそれに相応するだけの合理的理由がなければならないと解されるからである。

そこで本件において、被告が主張する減額請求権の行使の理由につき判断する。

前記認定の如く、被告は国鉄より概算金額による軌道用品製作請負を受注後、原告に対し、下請として同用品の部品の製作請負を発注したものであり、従って、原告との間で合意した部品製作下請代金は、国鉄との間に定められた元請代金を基準にし、更に利益をも考慮して決定されたものと推定するのが相当である。そして右元請代金が後日精算の結果、二割以上増額となった以上、下請代金の減額方を請求する理由は見出し難いところである。証人畑清の証言によると、原告主張の下請代金をもって部品を製作し、目的物を組上げると、国鉄との間の元請代金を超過してしまう旨の部分があるが、そのような関係が認められるとすれば、被告は国鉄に対し概算ではあるが元請代金を合意しておきながら、これに超過する下請代金を合意したことになる。従って同証言はにわかに措信し難いのであるが、仮りにそれが事実であったとしても被告の計算と負担においてなした結果であって、後日精算と称してこれを一方的に減額することはできないものである。従って減額請求の理由とはなし得ず、その他本件各証拠を検討するも、被告の本件原告との間の部品製作請負契約上の代金を減額すべき理由は認められない。また本件において概算金額なるものが全く拘束性のない浮動的なものとして合意されていたと認められる証拠もない。被告は原告との間で合意した概算代金残金を支払う義務がある。

四  被告は抗弁として、原被告間で減額の合意若しくは残額免除があった旨主張するが、この主張に沿う証人畑清の証言は採用し難く、ほかに同事実を認定するに足る証拠はない。

五  以上の事実によると、被告は本件請負代金残六、五〇三、一二四円及びこれに対する弁済期後である昭和四三年一二月一日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例